5 ISOマネジメントシステム共通要素の上位構造(HLS)
同じISO規格でも開発するグループが異なることから、箇条番号の付け方、
用語の定義、文書表現が異なるため、複数のISOマネジメントシステムを採用
している組織にとって、統合のしにくさが指摘されていました。
また、ISOが組織の事業活動に貢献していないのではないか、受動的な改善に
なっており予防処置(予防処置)が機能していないのではないか、などISO
マネジメントシステムの問題をなくすことも考慮に入れ、2012年に「ISOマネ
ジメントシステム共通要素」が開発されました。これ以降、新規に開発される、
または、改訂されるISOマネジメントシステム規格は、原則、共通要素を採用
することが義務付けられました。
ISOマネジメントシステム共通要素は、上位構造(High Level Structure)、
共通テキスト、共通用語から構成されています。上位構造とは、箇条番号の付
け方です。箇条1~10まであります。ちなみに、ISO 9001:2008は箇条1~8、
14001:2004は1~4でした。今回は上位構造の箇条4~10の大枠の考え方をお知ら
せします。箇条4~10のタイトルは以下のとおりです。
・箇条4 組織の状況
・箇条5 リーダーシップ
・箇条6 計画
・箇条7 支援
・箇条8 運用
・箇条9 パフォーマンス評価
・箇条10 改善
箇条4 組織の状況
組織を取巻く環境、顧客ニーズは常に変化します。その変化を的確の捉えマネジ
メントテムに反映させることを意図しています。
箇条5 リーダーシップ
トップマネジメントの役割が低いという指摘は世界中で議論されてきました。共
通要素ではトップマネジメントが説明責任を果たすべき事項を明確にしています。
しかしながら、実際の審査において、社長が説明責任を果たすことができなかっ
たからといって不適合の指摘にすることはありません。
箇条6~10はISOマネジメントシステムの枠組みを表しています。この枠組みはPDCA
をモデルにしています。Planは箇条6、Doは箇条7と8、Ceckは箇条9、Actは箇条10
です。PDCAの考え方は広く普及していますが、具体的にどのようなことをするのか
についてのオフィシャルな見解はありませんでした。ISOマネジメントシステム共
通要素の最大の貢献は、PDCAの考え方を整理し、組織が適合しやすくしたことだと
個人的には思っています。
箇条6 計画
組織が計画を策定するときに考慮すべき事項を規定しています。箇条4で検討した
課題から、対処すべき「リスク及び機会」を決定します。ここでいう「リスク及び
機会」は組織の「重点課題」と捉えると良いです。重点課題の中で、目標設定すべ
きものは目標設定をし、具体的な達成計画を作ります。目標設定しないものについ
ては、何らかの活動計画を策定し取組みます。
箇条7 支援、箇条 8運用
箇条7は「できない言い訳をさせない」ための要求事項が、箇条8は「決めたことを
やる」ときの注意点が記載されています。箇条7は箇条8を確実にするための要求事
項ととらえると良いです。決めたことが実行されない(順守されない)理由はなん
でしょうか。例えば、経営資源が不足しているのが原因で実行できないということ
もあるでしょう。箇条7.1資源では、できない言い訳をさせないよう必要な資源を
揃えることを要求しています。箇条7.2力量は従業員のレベルが低いのが原因で実
行できない、という言い訳をさせないよう教育・訓練の実施を求めています。
箇条7.3認識では、「なぜそれをしなければならないか」に関する説明責任を社員に
果たすことで「認識不足でやりませんでした」という不実行をなくしたいのです。
箇条7.4ではコミュニケーション不足(情報交換不足)が原因で実行できない言い
訳をさせたくないのです。箇条7.5文書化した情報は、言った言わないが内容に大
事なことは確実に伝えることを要求しています。
箇条9 パフォーマンス評価
結果(意図した成果)を重視し、確実にパフォーマンスが向上するよう課題を見つ
けることを要求しています。
箇条10改善では、同じ過ちを繰り返さないよう是正処置(再発防止)をすることだ
けでなく、能動的な改善(不適合を未然に防ぐための改善)をすることを要求して
います。
これらの箇条4~10は、ISOマネジメントシステムの共通の枠組みです。要求してい
ることは当たり前のことばかりです。ISOという言葉が付くと特別感があるかも知
れませんが、そんなことはありません。先ず、組織の実情を整理し、不足している
事項があれば、それらを補いながら仕組みを構築・運用されるのが良いです。
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※メルマガで配信したコラムを修正・加筆したものです