ISO 9001制定と歴史的変換

第2次世界大戦後、米軍の調達部門が製品への技術的な調達要求仕様に加えて、製品の生産システムに対する管理要求仕様を米軍規格(MIL Q 9858)として制定し、この規格を基に供給者への品質マネジメントシステム審査が米軍の調達制度に加えられました。そして、次第に宇宙産業や原子力産業でもこの品質マネジメントシステム審査が採用され、徐々に民間にも広がっていきました。

1970年代に入り、英、仏、独、カナダなどで、複雑な機能・性能を有する工業製品や高額な製品に対して、「供給者が要求した仕様を満たす製品を供給する」という信頼性を付すための品質管理・品質保証の重要性が認識されるようになりました。そこで、これらの国々では品質保証に関する独自の国家規格が制定され、品質マネジメントシステム審査が行われるようになりました。

1980年代前半、オランダやイギリスでは、自国の産業や製品の競争力を強化するために、国家により認定機関が創設され、審査登録制度が導入されました。この制度は、認定機関により適格性や信頼性を認定された審査登録機関(第三者)が自国または欧州域内で認知された品質管理や品質保証に関する規格を用いて、組織(企業・工場等)の品質マネジメントシステムが規格に適合しているかどうかを審査登録・公表することにより、購入者への信頼性を付与するものです。

1976年にISO(国際標準化機構)に品質保証に関する委員会TC176が設置され、規格作成の活動が開始され、1987年にISOによって品質管理及び品質保証に関する国際規格ISO 9000シリーズが発行されました。

国際規格の制定を審議する際には、しばしば既にある各国の規格を元にして作成されます。1982年頃にISOでもアメリカの国家規格(ANSI Z1-15)とイギリスの国家規格(BS5750)が議論の対象になりました。この違いは、基本的にアメリカ側が品質保証は二者間の問題だから一般的に示せるのはガイドライン止まりという基本的な考え方に対して、イギリス側は自国産業の国際競争力向上のために第三者審査の手段に使いたいと目論んでできて来たことにあります。この様な考え方のために、特に米国ではISO 9000第三者審査対応体制の整備は出遅れをしましたが、米国にとっての欧州市場は大きな輸出市場であるため、1992年のヨーロッパ経済統一の数年前から急速に体制の整備が進められました。

一方、英国では1978年に、それまでの社会主義経済の国営企業体制から民営化へ転換が行われ、民営化された企業の国際競争力を確保するために、「英国規格の国際規格化の推進」と「BS5750を用いた第三者審査による民営化企業の管理体制の強化の推進」に乗り出しました。

1979年のスタンダードコードでは、「国際的に認知された規格がある場合、各国はその受け入れに努力しなければならない」ことが定められており、これにより、ISO・IEC規格の重要性が一段と強化されるとともに、国別規格や地域規格の国際整合の必要性の認識が深まって行きます。そして、1992年のEC市場統合を契機としてISO 9000シリーズが世界に広まって行きました。ECの市場統合のためには政治、経済制度の整合だけでは不十分で、技術的障害を取り除くことが必要だったためです。

このように、70年代頃からヨーロッパの地域統合経済体制が形成されていき、その結果、欧州域内での通商障害を取り除き、産業界の成熟度や技術レベルの異なる国ごとの相互の不信感をのぞくために品質マネジメントシステム審査登録制度が導入されました。製品の購入者が品質マネジメントシステムに関し、第三者審査登録を供給者に求めたことで、この制度は域内だけでなくECに製品を輸出する域外の国々にも広く普及することとなりました。

ISO 9001は、供給者に対する品質管理、品質保証の国際規格を意味します。経済のグローバル化が進む中、 国や組織(企業等)によって品質保証の考え方が異なり、モノやサービスの自由な流通を妨げることを防ぐためISO 9000シリーズが制定されました。

※メルマガで配信したコラムを修正・加筆したものです